突然妻の借金が明らかになったとき、夫としては、今後の生活についてさまざまな不安が浮かんでくるでしょう。
これ以上問題を大きくしないため、早急な判断や対処が求められるケースも少なくありません。
妻の借金が夫の生活に与える影響や、夫自身の返済義務について、また離婚についてもわかりやすく解説します。不安解消のための基礎知識として、ぜひ役立ててください。
妻の借金は基本的に妻のもの!夫婦でも返済義務はない
妻が夫に内緒で借金を抱えている事実が明らかになった際、自分自身の返済義務がどうなるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
まず明らかにしておきたいのは、基本的に借金とは、「その人個人が負うもの」という事実です。妻が自分で借金をしていた場合でも、「夫だから」という理由で、肩代わりを求められるようなことはありません。
夫婦の間に子どもがいる場合、子どもに返済義務は生じるような恐れもありませんので、まずは安心してください。
とはいえ、妻名義の借金であっても、夫に返済義務が生じるケースがあるのも事実です。注意が必要な3つの状況については、次項目にて詳しく解説します。
【例外】妻の借金で夫に返済義務が生じる3つの事例
妻が個人で借金をして、その請求が夫の元に来るなんて…釈然としない思いを抱えてしまう方も多いのではないでしょうか。
しかし以下の3つの事例においては、夫への請求を免れられません。該当する場合は、注意してください。
1.夫が妻の借金の保証人・連帯保証人になっている場合
基本的に、借金は個人が負うもの。こうしたシステムの例外とも言えるのが「連帯保証人」や「保証人」です。
- 連帯保証人とは?
- 借金返済において、借金をした本人と同等の責任を負う人のこと。契約者本人が借金を返済できる状態かどうかにかかわらず、返済を求められる可能性がある。
- 保証人とは?
- 借金をした本人に返済が難しくなった場合、返済義務を負う人のこと。保証人よりも重い責任を持つことになる。
妻一人ではローンを組めない場合に、夫が保証人や連帯保証人になるケースは珍しくありません。過去に連帯法証人欄にサインをしていたり、それを認める発言をしたりしていないか、よく思い出してください。
2.妻が夫の名義を使って借金していた場合
通常、借金の申し込みは厳格な本人確認の上で受理されるもの。しかしインターネット上でのやりとりが増加した今、より手軽に申し込みできるケースも増えてきています。
たとえば、妻が夫の運転免許証をもとに、夫名義で借金の申し込みをした場合、店頭申込なら即断られてしまうでしょう。
しかしオンライン形式での申し込みなら、手続きしている人が身分証明書と同一なのか、判断することはできません。妻が夫名義で借金をするのは、決して難しくはないのです。
3.妻が「日常家事」のために借金していた場合
もう一つ、注意しなければならないのが、日常家事債務についてです。
日常家事債務とは、夫婦が共同生活を送る上で、一般的に必要と思われる範囲で生じる債務のこと。こちらについては、「夫婦が共同で責を負うべき」と考えられています。
では具体的に、どういった支払いが日常家事債務に当たるのでしょうか。
- 家賃
- 食費
- 日用品費
- 教育費
- 医療費
- 電気代やガス代、水道代 など
参考:日常家事債務 – 沖縄離婚問題相談所 サカイ行政書士事務所 離婚協議書作成、離活サポート、離婚問題の相談
何がどの程度「日常生活に必要なのか?」は、個々の状況によって異なるもの。よって、個別に判断されるケースがほとんどです。
相手が闇金の場合は要注意!
もう一点、注意しなければならないのが、妻の借入先が闇金である場合です。
法律的に見て「夫に返済義務はない」と判断される場合でも、闇金には関係ありません。もともと法律を守らずに営業しているわけですから、法律をもとにした理屈は通用しないでしょう。
闇金にとっては、少しでも多くのお金を回収することが目的で、そのための手段は選びません。妻個人の借金であっても、家族のもとへ取り立てが来る可能性は十分にあります。
妻が借金を返済できない場合はどうなる?生活への影響
ここからは、妻が借金を返済できない場合の影響について見ていきましょう。あくまでも妻個人の借金であり、夫に返済義務が生じないケースについて解説します。
金融業者からの督促がスタート
妻が自身の借金を返済できなかった場合、妻に対する督促がスタートします。
- 電話
- 封書
- はがき
- 訪問
さまざまな手法で、金融業者は妻に対して、借金を返済するよう求めるでしょう。返済が滞った場合、その期間に応じて遅延損害金が加算されます。
自宅に電話が来たり訪問されたりする機会はあっても、その対象はあくまでも「妻」です。夫に何らかの責務が発生することはありません。
参考:支払督促 | 裁判所
妻がブラックリストに登録される
返済が滞ってから2~3ヶ月が経過すると、金融業者は信用情報機関に「事故情報」を登録します。いわゆる「ブラックリスト入り」と言われる状態です。
参考:指定信用情報機関のCIC
ブラックリストに登録された場合、以下のような影響があります。
- 新たなローンが組めない
- クレジットカードが作成できない
- 所有しているクレジットカードを使用できない
- 人の借金の保証人や連帯保証人になれない
- スマートフォン本体の月賦払いができない
ただしこちらも、あくまでも「妻名義のみ」です。妻がブラックリストに登録されても、夫が何らかの制限を受けることはありません。
夫名義でなら新規ローンも問題なく組めますし、クレジットカードの使用も可能。夫のクレジットカードで家族カードを発行し、それを妻に持たせることもできます。
妻の財産が差し押さえられる
金融業者からの督促を無視し続けた場合、裁判所での手続きを経て、差し押さえが行われます。この場合、対象となるのも「妻が所有する財産のみ」です。
妻の給料の一部が差し押さえられたり、妻名義の財産が処分されたりします。この場合も、夫の財産は対象になりません。
妻の借金がわかったら…夫がするべきこと4つ
突然妻に借金があることがわかったら、混乱する方も多いでしょう。まずは冷静に、夫としてするべきことをこなしていきましょう。
4つのポイントを紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
1.借金の全貌を明らかにする
妻が借金をしていることが明らかになったら、まずはその全貌解明に努めてください。必要な情報を収集しましょう。
借入先の名称と数 | どこからお金を借りているのか? 何社からお金を借りているのか? |
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契約者名 | 誰の名前で契約しているのか? 保証人や連帯保証人はどうなっているのか? |
借入総額 | これまでに総額でいくら借りているのか? |
過去の借入実績や回数 | いつから、何回お金を借りているのか? |
返済額 | 毎月いくら返済しているのか? |
現在の返済状況 | 毎月滞りなく返済できているのか? 返済のためのお金はどこから確保しているのか? 完済できる見込みがあるのか? |
督促や延滞について | 過去に督促を受けたり、延滞したりしたことはないのか? |
担保について | 借金をする際に家や車を担保にしていないか? |
借金に関するリサーチの基本は、妻への聞き取りになるでしょう。とはいえ、妻に後ろめたい気持ちがある場合、すべての情報を明らかにしてくれない可能性も十分にあります。
この場合、妻の同意のもとで金融業者のマイページにログイン・情報確認したり、信用情報機関に問い合わせたりする必要も出てくるでしょう。
2.借金の理由について夫婦で話し合う
借金に関する情報が明らかになったら、もう一点、ハッキリさせておきたい部分があります。それが、「妻が借金をした理由」についてです。
ちなみに、妻が夫に内緒で借金をする理由で多いのは、以下のようなパターンです。
- 生活費の補填
- 趣味のため
- ギャンブル
- 買い物依存症
- 異性関係
もし借金の理由が「生活費の補填」であれば、夫自身にも返済義務が生じる可能性が高いです。またギャンブルや買い物依存症が原因なら、適切な治療が必要になるでしょう。
3.これ以上借金をしないよう対策を講じる
夫婦の借金問題をこれ以上広げないため、これ以上借金しないようにするための対策も必須です。具体的には、以下のような方法をとってみてください。
- 夫が家計管理を担う
- クレジットカードを持たせない
- 貸付自粛制度を活用する
夫が家計を握り、妻はお小遣い制にすれば、妻の周囲のお金の流れはシンプルになります。「つい借金をしてしまう」というパターンには非常に効果的です。
またクレジットカードは支出額が見えにくくなりがちです。銀行口座からすぐにお金が引き落とされるデビットカードなら、使い過ぎを予防できます。
貸付自粛制度とは、事前に本人から申告しておくことで、申し込みをしても貸付されないようにできる制度のこと。申告先は日本貸金業協会または全国銀行個人信用情報センターのどちらかです。
申告すると自粛情報が信用情報機関に登録されるため、どの金融業者で申し込みした場合でも、借入は不可能になります。
参考:貸付自粛制度について 【借金などでお悩みの方へ】 | 日本貸金業協会
4.自身の今後について検討する
妻の借金が明らかになった場合の感じ方は、人それぞれで異なるもの。さまざまな情報が出そろったら、自身の今後についても冷静に検討してみましょう。
今後については、大きく2つの道が考えられます。
- 夫婦で協力して借金問題解決を目指す
- 離婚して別々の道を歩む
どちらの道を選ぶのかは、これまでの関係や借金の理由、今後に対する考え方によっても変わってくるでしょう。一概に、どちらが「正解」とは言えないからこそ、自分自身で冷静に検討する必要があります。
怪しい…けど証拠がない!妻が借金しているかわからない場合の対処法
妻に借金の気配があるものの、証拠がない…という場合には、以下の点に注目してみてください。真実を知れる可能性があります。
- 妻あての郵便物の差出人をチェックする
- 妻あての電話が増えていないか確認する
- 利用明細が捨てられていないか探してみる
- ローンカードがないか確認する
- クレジットカードの利用履歴をチェックする
- 浪費の影がないかどうか確認する
借金の証拠を家族に対して完全に隠し通すのは難しいもの。特に妻が借金を延滞している場合には、金融業者からのアプローチが増えますから、夫が事態を把握するケースも多いようです。
妻の借金を理由に離婚は可能?判断のポイントを知ろう
妻の借金を理由に「離婚」を検討し始めた場合、気になるのが「そもそも借金は離婚事由として認められるのか?」という点です。
夫婦が離婚する場合、以下のような方法があります。
- 協議離婚
- 調停離婚
協議離婚とは、夫婦が話し合って離婚を決定する方式です。どのような理由であれ、夫婦間で合意が取れれば離婚は可能。もちろん、「借金」についても例外ではありません。
一方で、夫が離婚を望んでも妻が望んでいない場合、離婚が認められるか裁判で争うことになります。婚姻関係が破たんしているかが、争点になるでしょう。
たとえば、「不貞行為」や「3年以上の生死不明状態」は、婚姻関係が破たんしているものとみなされ、双方の合意がなくても裁判によって離婚が認められます。
「借金」が理由の場合、それが「婚姻関係を継続しがたい重大な事由」に当たるかどうかが、非常に重要なポイントになるでしょう。
妻の借金が「生活費のため」であれば、夫が一方的に「婚姻関係を継続しがたい重大な理由」と主張するのは無理があるでしょう。
【親権・返済・財産分与】離婚時に気になる3つの注意点
借金を機に妻との離婚を検討する場合、今後の生活に関わる細かな条件が気になる方も多いでしょう。親権・返済・財産分与の3点について、それぞれ注意点を解説します。
妻に借金があっても夫が親権を取れるとは限らない
妻の借金問題がきっかけで離婚を検討する場合、夫としては「当然自分の方に親権が認められる」と思うこともあるかもしれません。
しかし現実には、親権問題と借金問題は分けて判断されるもの。日本の裁判所の判断では、父親ではなく母親の方に親権が認められる事例がほとんどです。
父親が親権を取るためには、自身の実績を積極的にアピールすると共に、母親と子どもの関わり方について、積極的に伝える必要があるでしょう。また子ども自身との関係性も重要視されます。
離婚後に返済義務を負うことは基本的にない
最初にお伝えしたとおり、借金とは個人が背負うものであり、たとえ夫婦であっても、人の借金を返済する必要はありません。離婚後も同様です。
ただし、借金の原因が日常家事債務であったり、夫が連帯保証人になっていたりする場合は別。離婚して他人同士になったとしても、借金を返済する義務は残ってしまいます。
妻の借金が夫に財産分与されることはない
財産分与とは、離婚する夫婦が、婚姻中に築き上げた財産を分けることを言います。
財産分与で注意しなければならないのは、プラスの資産だけが分与の対象になるわけではないという点。ローンや負債など、マイナスの資産も財産分与の対象になります。
ここで気になるのが、「妻が個人で作った借金も財産分与されてしまうのか?」という点。この場合、借金は妻個人の責任であるとみなされます。財産分与の対象外と判断され、その他の財産を分けることになるでしょう。
離婚を選ばない場合の対処法は?問題解決のための方法
ここからは、夫婦が協力して借金問題を解決するための方法を紹介します。離婚を選ばない場合、早急に行動に移してみてください。
夫が借金を肩代わりする
借金とは、借りている金額が大きく、期間が長くなればなるほど、総返済額が増える仕組みです。
妻が借金を抱えている場合、いったん夫が肩代わりして完済する方法があります。肩代わりした事実を正式な書面に残しておきましょう。
具体的な借金返済計画を立て実行する
家計のやりくりの中で借金を返済していく場合、早急に借金返済計画を立てましょう。収入と支出、そして毎月の返済額を明らかにします。
返済スピードをアップするためのコツは、以下のとおりです。
- 毎月の支出を見直し節約する
- 固定費を削減する
- 収入増加を目指す
- より低金利のローンに借り換えする
債務整理を検討する
妻の借金が返済しきれないほど膨らんでしまっている場合は、債務整理を検討してみてください。法的に認められた手続きで、借金の返済負担を軽減できます。
具体的には、以下のような方法があります。
任意整理 | 債権者と債務者が、裁判所を通さずに直接和解について話し合います。任意整理を申し入れ、債務者側が受け入れてくれれば、将来利息をカットした上で、3~5年での元本分割返済に落ち着くケースが多く見られます。 手続きするためには、安定した収入と返済意思が必要です。 |
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個人再生 | 裁判所を通して、借金の元本を大幅に減額するための手続きです。再生計画案が認められれば、最大で5分の1から10分の1にまで圧縮された借金を、3~5年で分割返済します。 手続きするためには、安定した収入と返済意思が必要。住宅ローン特則によって、マイホームを守れる可能性もあるでしょう。 |
自己破産 | すべての借金の返済義務がチャラになる代わりに、一部を除いて、自身の財産も処分する手続きです。手続き後に借金を返済する必要はありません。 手続きするためには、返済不能に陥っていること、免責不許自由に当てはまる点がないことなどが求められます。 |
返済が難しいほどに膨らんでしまった借金でも、債務整理をすれば、問題を解決できる可能性が高いです。できるだけ早めに検討してみてください。
妻の借金を債務整理!夫に与える影響とは
債務整理を行った場合、借金の返済負担は軽減されるでしょう。しかしデメリットがないわけではありません。
- ブラックリストに登録される
- 官報にて、債務整理の事実が公告される(※個人再生・自己破産)
- 手続き中に引っ越しや旅行の制限を受ける(※自己破産)
- 手続き中は、一定の職業に就けない(※自己破産)
妻が債務整理をする場合、「夫である自分にはどういった影響が出るのか?」が気になる方も多いでしょう。
まず確認しておきたいのは、債務整理をするのはあくまでも「妻」であること。よって、夫の生活に直接影響が出ることはありません。
夫名義でのローン申し込みやクレジットカード利用が制限されるわけではありませんし、官報に名前が記されることもありません。夫自身が各種制限を受ける恐れもないのです。
ただし、マイホーム購入で妻と一緒にペアローンを組むのは難しいでしょう。夫が単独で審査に通過する必要があります。
妻の借金が明らかになったら?まずは冷静に「調査」をスタート
妻の借金が明らかになったら、まずは冷静になりましょう。今後の生活のためにも、重要なのは「正確な情報」です。
借金に関する情報はもちろん、借金をした理由や家計状況についても、しっかりとチェックしてみてください。その上で、今後どうするべきか考えるのがおすすめです。
借金を返済しきれない場合も、借金問題をきっかけに離婚を考える場合も、まずは一度弁護士に相談してみてください。専門家に相談することで、これから自分が何をすれば良いのか、具体的に見えてくるでしょう。